どぶろくが密造酒ってホント?
「どぶろく」って聞くと、なんだか“怪しいお酒”のイメージを持つ人も多いんじゃないでしょうか。
昔話で「農家のおじいちゃんが納屋でコッソリ仕込んでた」みたいなシーンが浮かびますよね。
実はそのイメージ、あながち間違っていないんです。
江戸時代までは農家が自分の家で米を使ってどぶろくを仕込むのは割と普通の光景でした。
ところが明治時代に入り、国が「酒を造るなら免許が必要です!」と法律を作ってしまった。
当然、それまで自由に造っていた人たちからしたら大反発。
「何を勝手に決めとんねん!」とばかりに、こっそり仕込み続けた人や、わざと公に「私は造ってます!」とアピールする人まで出てきて……結果、どぶろく=密造酒というイメージが定着してしまったんです。
だから今でも「どぶろくって作って大丈夫なん?」と聞かれることがよくあります。
海外では気軽に、でも日本ではダメ
YouTubeを覗いてみると、海外在住の日本人が「自宅でどぶろく造ってみた!」なんて動画をアップしてたりします。
見てると簡単そうで「自分もやってみようかな?」なんて思っちゃう人もいるかもしれません。
でもここで大事なことをひとつ。
日本国内でアルコール1%以上を自家製造するのは違法。
これをやったら完全にアウトです。残念ながら「手作りどぶろく生活」は夢のまた夢なんですね。
参照元:国税庁 自家醸造について
そもそも、どぶろくと清酒の違いは?

簡単に言うと、どぶろくは清酒の“手前の姿”。
米と米麹と水を混ぜて発酵させたドロッとした状態がどぶろくで、これを布で搾って透明な液体にしたのが清酒です。
と言っても法律で別けられているだけで中身は一緒なんですけどね。
さて、ではどぶろくって一体何なのか。
酒税法ではこんな感じに分類されています。
- 清酒:必ず搾って透明にするのがルール
- どぶろく(その他の醸造酒):搾っちゃダメ、濁ったままの姿でOK
ちなみに「にごり酒」ってありますよね。あれは清酒の一種。粗めの袋で一応“濾している”から、れっきとした清酒なんです。
こうして見ると、酒の世界ってけっこう細かいルールで分かれているんですよね。
清酒は取れないから「その他の醸造酒」へ
本当は「清酒」の免許を取りたかったんですが、原則として新規では出ないんです。
つまり、新しく清酒蔵を始めたい!と思っても、ほぼ無理ゲー。
そこでウチは「その他の醸造酒」というカテゴリーで申請しました。
これがまた面白い。
清酒では原料に糖類を使えないのに対して、その他の醸造酒なら「穀物+糖類」が使える。
つまり、蜂蜜や果汁を入れることができちゃうんです。
清酒ではできないことができる。
これってむしろチャンスじゃないか?と考えました。
狙うは地元産のフルーツどぶろく

私たちが今挑戦しようとしているのは、地元・岸和田の名産「包近(かねちか)の桃」をふんだんに使ったフルーツどぶろく。
この包近の桃は世界一甘い桃としてギネスに認定されているんです。
参照元:農林水産省
米の旨みと桃の甘さが合わさったら……想像しただけで贅沢ですよね。
桃って香りが強いので、どぶろくの濃厚さに負けないはず。
これはもう“飲むスイーツ”です。
来年の春には仕込める予定なのでお楽しみに。
作り方はびっくりするほど簡単

「酒造り」って聞くと、白衣を着た職人が難しい顔で温度計を見ているイメージありません?
でも、どぶろく造りの基本は超シンプルなんです。
- 蒸した米と米麹と水を仕込む
- 時々混ぜてあげる(櫂入れ)
- あとはほったらかす
- アルコールが限界まで上がったら完成
樽の中ではどんなことがおこっているのか
- 麹が米のでんぷんを糖に分解することでアルコール発酵が可能な状態にする(甘酒状態)
- 糖に分解されたものを酵母がアルコールと二酸化炭素にに変える(発酵)
糖化と発酵が同時に行われるという珍しい醸造方法なんですよね。
焼酎も麹を使って糖化し醸造したものを蒸留してますから一緒なんです。
ちなみにワインも醸造ですが、葡萄には糖が含まれているので糖化という段階がないので違うんですよね。
昔の人はこの仕組みを“理屈ではなく経験”でやっていたんです。
科学的に考えるとすごいんですが、当時は「なんか置いといたらできた!」くらいの感覚だったはず。
気になるお金の話

さて、ここでちょっと現実的な話をしましょう。
例えば米30kgを使ってどぶろくを100L仕込むとします。
これを搾ると約80Lになって、一升瓶にするとだいたい45本。
もし1本2000円で売れたら、単純計算で9万円の売上。
これは酒屋での話、メーカーとしては卸に出す計算が必要で大体65%くらいの金額になります。つまり5万8千円ほど。
ざっくり原料費は1万7千〜2万4千円くらいで造らないと利益が残らない、残りで人件費などを賄う。
じゃあメインの米はどうか。
スーパーで買うと5kgで5000円!30kgなら3万円!
これじゃ採算が合いません。
実際には農家さんや市場から安く仕入れるんですが、まともな米だけで酒を造ろうとするとかなり厳しい。
だから「政府が放出した古米を仕入れてるんじゃない?」なんて噂も出るわけです。
やっぱり天然に勝るものはない
でも、私が思うのは――
せっかくお酒を造るなら「材料をケチらず、自然の力を信じて任せる」ことが一番大事じゃないかと。
機械でコントロールしすぎると、どうしても“工業製品”みたいなお酒になる。
それはそれで安定していて悪くないんですが、人の心を動かす味にはなりにくい。
だからウチは、良いお米と、地元の桃をふんだんに使って、できるだけ天然の発酵力に任せた“生きたお酒”を造りたい。
まとめ
どぶろくは「怪しい密造酒」なんて言われがちですが、実際は清酒の手前にある立派なお酒です。
日本の酒文化の原点とも言える存在なんですよね。
そして現代の法律上は「その他の醸造酒」というカテゴリーで挑戦することで、むしろ清酒にはできない自由な造りができる。
それなら徹底的に遊んでやろうじゃないか、と(笑)。
というわけで、ウチのフルーツどぶろく。
桃をたっぷり使った、甘くて爽やかな一杯に仕上げる予定です。
完成したらぜひ味わってみてください。
「どぶろくってこんなに美味しかったのか!」と驚くはずです。
私が書きました

杉本昭博
古美術・骨董の買取販売を手掛けるほか、少人数で回せる酒造ベンチャーの立ち上げに取り組んでいます。
伝統を大切にしつつ、新しい挑戦を続けることを理念としています。
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