「テロワール」って聞いたことありますか?
ワインの世界ではめちゃくちゃ大事にされる言葉なんですが、初めて聞いた人は「テロ…?なんだか危なそうな言葉だな」なんて思うかもしれません(笑)。
実はこれ、フランス語の terre(テール=土地) から来ていて、簡単に言うと「土地の個性」とか「その場所の味」といった意味なんです。
ワイン好きの人からしたら常識かもしれませんが、私のような一般人にとっては「へぇ〜」で終わる単語。ところがこの「テロワール」という概念、知れば知るほど面白いんですよ。
ぶどうは正直すぎる植物

まず、ワインの原料であるぶどう。
こいつがまた正直者で、 どこに植わっているかで味がガラッと変わる らしいんです。
同じ町内でもAさんの畑とBさんの畑でぶどうの味が違う、なんてこともある。これってちょっと不思議ですよね。
私なんかスーパーで買うとき「今日は安売りだからこっちにしよ」ぐらいしか考えませんが、ワインの世界では「土の粒子の大きさが…」「水はけが…」と、細かすぎるこだわりが飛び交っているのです。
その究極が、有名な ロマネ・コンティ。
あのワインは世界中のワイン好きが涙を流してありがたがる一本ですが、なぜかと言えば「その畑の土壌と環境」が唯一無二だから。
しかも小さな一区画だけが「ロマネ・コンティ」で、隣の畑はもう名乗れない。
「いや、そこまで細かいの?」ってツッコミたくなりますが、これがワインのロマン。
焼酎にもテロワール?
この話、実はワインに限ったことではありません。
以前、鹿児島の焼酎蔵の社長さんの講演を聞いたことがあるのですが、その方が海外展示会に自社の芋焼酎を持っていったときの話が面白かった。
現地のバイヤーさんたちが、口を揃えて聞いてきたのはこうだったそうです。
「この芋はどんな土で育ったんだ?」
え、芋の品種や味じゃなくて、 土?
私なんか「芋なんて、北海道で作ろうが九州で作ろうが、そんなに変わらんでしょ」と思ってしまうのですが、ヨーロッパの人にとっては「どんな土か」が大事。
たしかに、ワインの文化が根付いた人たちからすれば「土がすべてを決める」という発想は当たり前なんでしょうね。
でも日本人からすると「いやいや、芋は鮮度の方が大事でしょ!」とツッコミたくなるわけです。
日本は「水」こそ命

日本でお酒を語るとき、あんまり「土がどうこう」って言いませんよね。
代わりに必ず出てくるのが 水。
「米どころは酒どころ」なんて言葉があるくらいで、米の旨さ+水の旨さ=美味しい日本酒、という発想です。
逆にヨーロッパは水がまずい地域も多かったので、「水じゃ勝負できない…よし、土だ!」となったのかもしれません。
考えてみれば、日本はどこに行っても水道水が美味しいのが当たり前。贅沢すぎる環境です。
お米と麹に水を加えて造る清酒文化だから、わざわざ「土」を気にする必要がなかったのでしょうね。
ジャパニーズウイスキーの人気の理由?
ここ数年、ジャパニーズウイスキーが世界的に人気です。
その理由のひとつに「日本の水の美味しさ」があるんじゃないかと私は思うのです。
例えば、富山にある蒸溜所を訪れたとき。
見学のあとに試飲をさせていただいたのですが、私はお酒が体質的にあまり飲めないタイプ。
「うーん、大丈夫かな…」と思いつつ舐めてみたら、意外とすんなりいけちゃったんですよ。
ところが数日前に飲んだ某有名バーボンは、一口で「アルコールの壁」に激突。
「うわっ!きっつ!」と撃沈…。
この差はいったい何なんでしょう?
体調のせいかと思っていたのですが、もしかすると「水」や「手間ひま」が影響しているのかもしれません。
神様がチューニングするお酒?

さらに不思議な体験があります。
地元のお祭りでは、神主さんに来てもらってお祓いをするのですが、そのとき神様にお供えしたお酒(献酒)を「お神酒」としてみんなでいただきます。
私も例に漏れず一口いただいたのですが…驚きました。
普段ならアルコールの刺激で「うっ」となるのに、そのときのお神酒はスーッと体に入ってきたんです。
まるで神様がアルコールの角を丸めてくれたかのような、不思議な味わい。
これは家の神棚にお供えすることでも同じような効果があります、不思議と味がまろやかになるのです。
科学的根拠はゼロですが(笑)。
でも、水道水にカルキ抜きの魔法をかけたみたいに、やわらかくなっているんですよね。
大手メーカーのジレンマ
さて、ここまで「水がどう」「土がどう」と語ってきましたが、大手メーカーのウイスキーやお酒にも触れないといけません。
今や入手困難な某白◯や◯崎などの大人気ウイスキー。
もちろん美味しいし、日本人の味覚に合わせて作られています。
ただし、大量生産する以上どうしても避けられない問題がある。
それが「均一化のための調整」。
いろんな原酒をブレンドして「いつ飲んでも同じ味」を実現しなければならないのですが、大量に扱う分バラツキも出る。
そこを補うために使う微調整が、味に影響するのです。
もちろん体に悪いものではありませんが、飲んだときに「あれ?なんか角があるな」と感じる人もいるかもしれません。
まとめ:値段や年数より「手間ひま」
私は酒が飲めなくなってしまった身ですが、それでも仕事柄、人よりは色んなお酒を口にしてきました。
そして振り返ると、値段が高いかどうか、熟成年数が長いかどうかよりも、 「どれだけ手間ひまかけて作ったか」 で飲みやすさが決まっている気がします。
大手メーカーだって制約の中で全力を尽くしているのはわかります。
ただ「均一化しなければならない」という縛りが、逆に個性や柔らかさを奪っているのかもしれません。
テロワール、水、手間ひま、そして神様のひとさじの魔法。
お酒って結局、その全部が合わさって「美味しい」と感じるものなんだなぁ、と、酒が飲めない私が言うのもなんですがそう思うのですよね(笑)。
私が書きました

杉本昭博
古美術・骨董の買取販売を手掛けるほか、少人数で回せる酒造ベンチャーの立ち上げに取り組んでいます。
伝統を大切にしつつ、新しい挑戦を続けることを理念としています。
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