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実はこの現象、科学的にきちんと説明できるのです。
今回は、袋吊り搾りがなぜ「お酒が苦手な人の体にも優しいのか」 を、搾りの仕組みから分子レベルの話まで、できるだけわかりやすくご説明します。

お酒が苦手な方の多くが感じるのは、「アルコールそのもの」よりも、アルコールに付随する複合的な不快感です。
圧力をかけて搾る製法では、以下のような成分がお酒に混ざり込みます。
これらは「雑味」と呼ばれ、お酒の「臭さ」「キツさ」「後味の悪さ」として敏感な方には強く知覚されます。
袋吊りでは外圧がかからないため、こうした成分が一切絞り出されません。
袋の外に滴り落ちるのは、もろみの中で自然に液化した純粋な部分のみ。
結果として、雑味が原因のネガティブな味覚刺激がゼロに近い状態のお酒が生まれます。
お酒を飲んだときに感じる「ツンとした刺激」や「モヤっとする感覚」。
これはアルコール(エタノール)が単体で揮発するときに起こる現象なんです。
化学的に説明すると、水(H₂O)とエタノール(C₂H₅OH)は 水素結合 によって結びつきますが、外部からのストレス(機械的振動・圧力・温度変化)が加わると、この結合が乱れ、エタノールが水から「遊離」した状態になりやすくなります。
遊離したエタノールは揮発性が高く、口腔内・鼻腔粘膜・食道に直接刺激を与えます。これが「アルコールのカド」と呼ばれる感覚の正体です。
袋吊りは 機械的ストレスをまったくかけない ため、発酵中に自然形成された水とアルコールの水素結合がほぼ無傷のまま保たれます。
液体の中で水分子とアルコール分子が緻密に結合した状態が維持されることで、揮発しやすい遊離エタノールが極めて少なくなります。
これが、袋吊りのお酒が「スッと喉を通る」「アルコールのカドがない」と感じられる化学的な理由です。
参照元:BUNSEKI KAGAKU Vol. 57, No. 3 水-エタノール混合溶媒中の水素結合性に及ぼす溶存成分の役割 北條正司Ⓡ ,能勢晶
参照元:ResearchGate アルコール飲料における水とエタノールの水素結合を介した相互作用
液体の「飲み心地」は、粘性・表面張力・微細な粒子(コロイド)の量によって決まります。
圧力搾りでは、強い圧力で細胞壁が破砕され、微細な固形粒子 がお酒の中に混入します。
これが液体に「ざらつき」「引っかかり感」「重さ」を与えます。
舌の表面にある味蕾や触覚受容体がこの物理的な刺激を敏感にキャッチし、「飲みにくさ」として脳に伝達されます。
袋吊りでは細胞の破砕が起きないため、液体に混入する固形粒子がほぼゼロ。
コロイド状態が非常に安定しており、表面張力が均一に保たれたなめらかな液体 になります。
飲んでみると「水みたい」と表現される方が多いのはこのためです。
実際には濃厚な旨味が感じられます。
しかし、舌や喉への物理的な引っかかりがなく、アルコール飲料特有の「重さ」を感じさせません。
アルコールは体内でアルコール脱水素酵素(ADH)によってアセトアルデヒドに分解され、さらにアルデヒド脱水素酵素(ALDH)によって酢酸へと代謝されます。
ここで重要なのは、アルコールと一緒に摂取した成分が代謝の効率に影響を与える ことです。
雑味成分の一部、特に脂質酸化物や特定のアミン類は、肝臓での代謝経路に割り込み、アルコール代謝を阻害したり、アセトアルデヒドの滞留時間を延ばしたりすることが研究で示唆されています。
袋吊りのお酒は雑味成分が少ないため、肝臓がアルコールの代謝に集中できる環境が整いやすいと考えられます。
「たくさん飲んだのに翌日がラク」「酔いが穏やか」という体験談が多いのは、こうした代謝効率の違いが影響している可能性があります
(※個人差があります)。
参照元:PMC 日本酒の慢性摂取は、マウス肝臓における放射線誘発性代謝変化を媒介する
袋吊りの特徴を科学的に整理すると、その本質は「何も加えないこと、何も壊さないこと」にあります。
| 比較項目 | 圧力搾り | 袋吊り搾り |
|---|---|---|
| 雑味成分の混入 | あり | ほぼなし |
| アルコールのカド | 強め | 極めて少ない |
| 口当たり | やや粗い | シルクのようになめらか |
| 体への負担感 | 比較的高い | 比較的低い |
| 搾れる量 | 多い | 少量(希少) |
圧力をかけず、ただ吊るして待つ。
この「何もしない」という行為が、お酒本来の純粋な姿を引き出します。
お酒が苦手になってしまった方、「一口だけ試してみたい」という方に、私たちが自信を持っておすすめできるのが袋吊りのお酒です。
「お酒が飲めない私が、なぜかこれだけは飲める」その不思議な体験の裏には、ちゃんとした科学がありました。
ぜひ一度、袋吊りの一滴をお試しください。
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この記事を書いた人
旨い酒を作りたいという思いで、岸和田の地にて酒蔵を始めました。また、酒造りの傍ら、古美術商も営んでおり、ぐい呑みなどの酒器を集めています。