「その他の醸造酒」とは?
私は酒蔵を始めるに辺り、どんなお酒を造るかを考えた時に「その他の醸造酒」を選びました。
あまり聞き慣れない「その他の醸造酒ってどんなお酒なの?」「日本酒と何が違うの?」という疑問を多くいただきます。
結論から言うと、ほぼ清酒(日本酒)と同じ米と麹で造られ、あと糖を使うことも出来まます。
糖なので砂糖でも、サトウキビの搾り汁でも、蜂蜜でも砂糖水でも大丈夫です。
「清酒」は原料として米と麹以外が使えません。
アルコール度数などの調整用に醸造アルコールの仕様が認められていますが、それ以外の原料を追加することが認められていませんが、「その他の醸造酒」は米と麹以外の副原料が認められているという自由さがあります。
と言っても米が主でその他は副になるので米100KGで副原料も100Kgだと流石に認められませんが、10kgくらいなら許容範囲な所があります。
コレばっかりはお上(税務署)の判断なので一概に言えませんが・・・。
そんな方法が取られるので、面白いところではホップやハーブなどを副原料として混ぜる事で日本酒の味にハーブの香りがついた不思議なお酒を作っている酒蔵さんもあります。
当蔵では副原料に苺の果汁を混ぜ込んで苺フレーバーのお酒を醸しました。
今回は、法律上の区分、造り方、味わい、そして世界的なトレンドまで「その他の醸造酒」について、蔵元ならではの視点でたっぷりと解説します。
ぜひ最後までお付き合いください。
1. 「その他の醸造酒」とは何か?酒税法上の定義
日本のお酒は4種類に大別される
まず、基礎知識として。
日本では酒税法(昭和28年法律第6号)によって、アルコール分1度以上の飲料を「酒類」と定義し、大きく次の4種類に分類しています(酒税法第2条)。
- 発泡性酒類:ビール・発泡酒・その他の発泡性酒類
- 醸造酒類:清酒・果実酒・その他の醸造酒
- 蒸留酒類:焼酎・ウイスキー・ブランデー・スピリッツなど
- 混成酒類:リキュール・みりん・合成清酒など
このうち「醸造酒類」の中に位置づけられるのが、今回のテーマである「その他の醸造酒」です。
「その他の醸造酒」の法律上の定義
酒税法第3条第19号では、「その他の醸造酒」を次のように定義しています。
穀類、糖類その他の物品を原料として発酵させた酒類で、アルコール分が二十度未満のもの(エキス分が二度以上のものに限る)
つまり、清酒(日本酒)でも果実酒(ワイン)でもない、発酵によってつくられた醸造酒の総称がこのカテゴリーなんです。
この区分は2006年(平成18年)の酒税法改正によって新設され、同年5月1日から施行され、それ以前は「雑酒」として一括りにされていたお酒の一部が、独立した区分として認められるようになりました。
清酒・果実酒との違いはどこにある?
少しわかりにくいのが「清酒」との境界線です。
清酒(日本酒)は先にも簡単に書きましたが、米・米麹・水を原料として発酵させたあとに、必ず「こす(漉す)」という工程を経ることが酒税法上の要件の一つです。
この「濾す」工程がないと、たとえ米を原料にしていても清酒に分類されません。
また、米と麹以外の原料を少しでも入れたらその時点で清酒でなくなり、その他の醸造酒になります。
一方、果実酒は果実のみを原料とした醸造酒が対象で、ブドウから造るワインが代表例です。りんごのお酒シードルなんかも果実酒に入ります。
これら二つに当てはまらない醸造酒が、すべて「その他の醸造酒」に収まります。
代表的なものを挙げると以下のようになります。
2. 「その他の醸造酒」に分類される主なお酒
(1)どぶろく日本最古の発酵酒の一つ
どぶろくは、米・米麹・水を原料として発酵させたお酒で、清酒(日本酒)と製造工程は非常に似ています。大きな違いは「濾す(こす)」工程を行わないことです。
この一点の違いによって、どぶろくは酒税法上「その他の醸造酒」に分類されます。
にごり酒も白く濁った見た目が似ていますが、にごり酒は荒い網で一度漉しているため「清酒」に分類される点が異なります。
ちなみに、どぶろくを置いておくと、透明な部分と濁った部分に分かれますが、その透明な部分のみすくい取っても濾したと見なされるそうで、注意が必要なんです。
上澄みを取っただけだから濾していないは通用しない(税務署で確認済み)
どぶろくとは、お米の粒や麹が混ざったままの状態で飲む、いわば「原始的な形の日本酒」です。
米本来の旨みや栄養素がまるごと含まれており、発酵によって生まれる自然な酸味と甘味、そして微炭酸のような口当たりが特徴です。
「飲むというより食べる感覚に近い」と表現されることもあります。
アルコール度数は銘柄によって幅広く、ビールに近い5%前後から、日本酒と同程度の15%前後まで様々あります。
歴史的には、どぶろくは明治時代以降、酒税収入の保護を目的に個人の製造が禁止されました。
現在は免許を取得した蔵元や一部の神社のみが製造できます。
また2003年以降、農家民宿などが地域活性化のために製造できる「どぶろく特区」という制度も設けられており、地方の農業振興と結びついた取り組みとして注目されています。
大阪では高槻市がどぶろく特区に指定されています。
(2)ミード(蜂蜜酒)人類最古のお酒
ミード(Mead)は、はちみつに水と酵母を加えて発酵させた醸造酒です。
日本ではまだ知名度が低いですが、西洋では神話や歴史物語に何度も登場してきた、由緒ある伝統的なお酒です。
日本ミード協会によれば、ミードの歴史は諸説ありますが、ワインの4000年やビールの6000年前よりも古く、1万4,000年以上前から人類が飲んでいたとされています。
ギリシャ神話では「神々の飲み物」として崇められ、古代ケルト人には「不死の飲み物」として珍重されてたそう。
「ハネムーン(蜜月)」という言葉の語源もミードにあります。
中世ヨーロッパでは花嫁が結婚から1か月間ミードを飲む習慣があったとされ、そこから「蜜の月(ハニームーン)」という言葉が生まれたと言われています。
見た目は白ワインに似ていますが、口にすると蜂蜜特有の芳醇な香りと甘みが広がります。
アルコール度数はおよそ5〜16%前後で、蜂蜜の種類・熟成期間・産地によって風味が大きく変わる奥深いお酒です。
すっきりしたドライタイプから濃厚な甘口タイプ、シャンパンのように発泡するスパークリングタイプまで、バリエーションも豊富です。
近年はクラフトミードのブームが世界的に広がっています。
アメリカでは醸造所の数が500を超えるとも言われ、日本でもクラフトビールブームを追うような形で個性豊かな小規模ミード醸造所が各地に誕生しています。
フルーツやハーブ、スパイスを組み合わせた「クラフトミード」は、多様な味わいと物語性を持つ新しい飲み物として注目を集めています。
(3)紹興酒(黄酒)中国が誇る熟成醸造酒
紹興酒は、中国浙江省紹興で造られる黄酒(ホワンチュウ)の代表格です。
黄酒とは米や麦などの穀類の麹を用いて造る醸造酒で、日本の酒税法上は「その他の醸造酒」に分類されます(東京国税局・独立行政法人酒類総合研究所の解説による)。
紹興酒は「良質のもち米、小麦と紹興特定地域の鑑湖(かんこ)の水を原料とし、独特の発酵工程によって製造した品質のよい黄酒」と定義されており、輸出用には3年以上の貯蔵熟成が加えられたものという要件もあります。
清酒(純米酒)と比べて酸度が2〜3倍高く酸味が強いこと、独特の色と甘く焦げた香りが特徴です。
黄酒を長期熟成させたものは「老酒(ラオチュウ)」と呼ばれ、まろやかで複雑な風味を持ちます。
中国では女の子が生まれると、この紹興酒を庭に埋め、結婚する時に掘り出し、老酒として一緒に飲む習慣があるそです。
(4)その他の穀物・糖類を原料とした醸造酒
「その他の醸造酒」の定義は非常に広く、穀類・糖類その他の物品を原料として発酵させたものであれば、アルコール度数20度未満・エキス分2度以上を満たす限り、このカテゴリーに入ります。
たとえば、いわゆる第三のビール(新ジャンル)の一部、とうもろこしや大豆などの穀物を原料とし、麦をまったく使わない醸造酒もこのカテゴリーです。
また、サツマイモやその他の穀物を原料とした独自の醸造酒もここに含まれます。
3. 日本酒との醸造工程の比較
発酵の仕組みは同じ、境界線は「工程」と「原料」
日本酒・どぶろく・ミード・ワイン、これらはすべて酵母が糖をアルコールに変える「アルコール発酵」によってつくられます。
基本的なメカニズムは同じです。
各お酒の違いは原料と製造工程にあります。
| お酒 |
主原料 |
酒税法上の区分 |
「こす」工程 |
| 日本酒(清酒) |
米・米麹・水 |
醸造酒類/清酒 |
必要 |
| どぶろく |
米・米麹・水 |
醸造酒類/その他の醸造酒 |
不要 |
| ワイン |
ブドウ |
醸造酒類/果実酒 |
品目による |
| ミード(蜂蜜酒) |
蜂蜜・水 |
醸造酒類/その他の醸造酒 |
不要 |
| 紹興酒(黄酒) |
もち米・麦 |
醸造酒類/その他の醸造酒 |
品目による |
出典:酒税法第3条・国税庁「酒税法における酒類の分類及び定義」をもとに作成
その他の醸造酒と清酒の違いは濾す工程でしたが、副原料を混ぜるかどうかでも変わります。
その際、副原料を混ぜた場合はその他の醸造酒に変わりますので、濾す工程をするかしないかは自由です。
しかし、副原料を加えない場合は「どぶろく」としてカテゴライズされますので濾すことが出来ません。濾してしまうと清酒になるため。
この複雑極まりない解釈は税務署のお酒の担当者も悩むくらいで、私が免許を申請した時に担当者がその事が解らず、説明に苦労しました。
「その他の醸造酒」製造に必要な免許
日本でお酒を製造するには、酒税法に基づく酒類製造免許が必要です。
「その他の醸造酒」を製造するためには、醸造酒類に対応した製造免許を所轄の税務署に申請し、取得しなければなりません。
どぶろくについては、従来は製造のハードルが非常に高かったのですが、2003年から始まった「どぶろく特区」の制度を活用することで、農家民宿などが地域限定で製造できるようになりました。
清酒の免許は新規で取れない
現在、清酒、味醂、焼酎甲類・乙類(現在は連続式・単式と呼ぶ)の免許の発行をしていません。取得するには既存の酒蔵をM&Aで買い取るくらいしか道がありません。
ただ、作って国内では売らず輸出だけするなら免許は降りるそうです。
国税局などの言い分は減反政策などで米が少なくなっているので食べるための米が減ると困るからだそう。
当蔵のその他の醸造酒も穀物を主な原料としているのでコメを使いますがそれは良いそうです。
酒を醸したい私にとっては抜け道が有ってありがたいのですが、お上のやることはやっぱりどっか抜けている気がしますね。
4. 今、なぜ「その他の醸造酒」が注目されているのか
クラフトカルチャーの広がり
2010年代以降、日本でもクラフトビールや地ビールのブームが本格化しました。
「地元の素材を使った、小さな醸造所の個性的なお酒」への需要が高まり、その波は今やワイン、シードル、そしてミードにまで広がっています。
クラフトミードの場合、地域の養蜂家と連携して地元産の蜂蜜を使い、その土地の水で仕込むことで、ワインで言う「テロワール(土地の個性)」を体現することができます。
アカシア、百花蜜、山藤、カエデなど原料となる蜂蜜の種類によって、まったく異なる味わいのミードが生まれます。
これは、同じ米から様々な日本酒が生まれる仕組みと本質的に同じです。
ポップカルチャーによる認知度向上
近年、映画やゲームの影響でミードへの関心が高まっています。
映画「ハリー・ポッター」シリーズや、世界的に人気を博したロールプレイングゲーム「スカイリム」の中にミードが登場し、若い世代がその存在を知るきっかけになっています。
ファンタジー世界観に憧れを持つ層がリアルのミードを求めるという現象も起きています。
健康意識の高まりとの親和性
蜂蜜はビタミン・ミネラル・アミノ酸など多くの栄養素を含む自然素材です。
ミードは蜂蜜から造られるため、「自然由来で身体にやさしいお酒」というイメージを持つ方も多く、食品添加物を使わないシンプルな製法への注目とも重なります。
また、どぶろくも米の栄養素をそのまま含む発酵食品として、健康志向の高い消費者から関心を集めています。
麹菌・乳酸菌・酵母が共存する豊かな発酵物であり、腸内環境への関心が高まる現代において、改めて評価されつつあります。
5. 当蔵が「その他の醸造酒」に取り組む思い
私が、「その他の醸造酒」の世界に足を踏み入れたのは、発酵という営みへの純粋な好奇心からでした。
酵母が糖をアルコールに変えるという基本原理は変わらなくても、原料が変われば生まれる香りも、味わいも、物語もまったく異なります。
お酒は、原料と水と微生物が織りなす自然の産物です。
同じ発酵の原理でありながら、原料の個性を引き出すことで、こんなにも多様な世界が広がる。
それが「その他の醸造酒」の魅力だと、造り手として実感しています。
6. 「その他の醸造酒」の楽しみ方・選び方
どぶろくを選ぶポイント
どぶろくを選ぶ際は、まずアルコール度数と甘辛度を確認しましょう。
度数が低いもの(5〜8%程度)は飲みやすく、食中酒としても活躍します。
度数が高いもの(12〜15%)は、より濃厚な米の旨みを楽しめます。
また、使用する米の品種や麹の種類によっても味わいが大きく変わります。
地域の米を使ったどぶろくは、日本酒と同様に産地の個性を楽しむことができます。
食事との合わせ方としては、クリームチーズや白みそを使った料理、豆腐や蒸し野菜など、素材の甘みを生かした料理と相性が良いですね。
7. まとめ 発酵の多様な世界に触れてほしい
「その他の醸造酒」というカテゴリーは、法律上の区分としてはやや無機質な名称ですが、その中身は実に豊かです。
日本最古の発酵酒であるどぶろく、人類最古の酒と言われるミード、千年の歴史を誇る紹興酒どれも「穀類や糖類を発酵させる」という原理を共有しながら、まったく異なる文化と物語を持っています。
当蔵が「その他の醸造酒」に挑戦するのも、そうした発酵の多様性を伝えたいという思いからです。
日本酒の奥深さを知っているからこそ、ほかの発酵酒の魅力もより深く感じることができます。
ぜひ皆さんも、普段飲み慣れた日本酒の隣に、どぶろくやミードを並べて飲み比べてみてください。
発酵という同じ営みから生まれた、それぞれの個性に驚かれることと思います。