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私はお酒が飲めないのだがなぜか袋吊りの避けだけは飲めるという体質で、そんなお酒を自分の手で造りたいと思っていました。
そのために辿り着いたのが「袋吊り」という搾り方と、「品温」と「比重」の管理方法。

出来上がった醪(もろみ)に圧力をかけず、重力だけで自然に滴り落ちたものだけを集める方法です。圧力をかけて搾れば量は多く取れますが、その分雑味も出てしまいます。
この雑味が、アルコール感や美味しさを損なう原因になり飲めない原因だったのです。
だからこそ、袋吊りで搾ることにしました。
そもそもアルコールは、醪の中の糖分が発酵することで生まれます。
発酵は熱を発生させ、その熱がさらに発酵を進めるという性質があり、急激に発酵が進むと、甘みが消えて酸味だけが際立つという悪循環が起こります。
逆に、糖がアルコールに変わる時間をゆっくりにすれば、酸っぱくなりにくい特徴があります。
既存の酒蔵であれば、定期的に温度変化を確認する人員がいるのでしょう。
しかしウチにはそんな余裕はなく、そもそも一人で他の作業もこなさなければならないため、常時の管理は不可能でした。
「温度変化を管理したい」「でも一人しかいない」この二つを結びつけた答えがIoTでした。

調べていくうちに、Arduinoというマイコンボードに様々なセンサーを接続できることが判った。
AIに相談すればコードも書いてもらえるし、接続方法も教えてくれる。
このデータを自社のホームページがあるレンタルサーバーに送り、サイトとして表示させることでスマホからも確認ができる。
しかも費用は数千円程度で済む。ならばと、早速機材を揃えて作ってみました。
実際に作ってみると品温や室温などは測定できても、肝心のアルコール濃度は測定できないことでした。

ネットを徘徊していると、アメリカでは、クラフトビールのマイクロブルワリーの人たちが「TILT」という製品を使って品温と比重を測定していることを見つけました。
醪の糖がアルコールに変わると糖が減り、それに伴って比重も下がる。
この仕組みを利用して、簡易的にアルコール濃度の変化を推定するというものです。
アルコール濃度を直接測るセンサーは手軽に入手できるものではないため、このような間接的な方法が使われているようです。
日々の分析でアルコール濃度も測定しているので、比重とアルコール濃度を紐づければ、おおよその濃度を推定できる。
定期的に確認していれば比重が急激に下がっているときは、アルコールへの変化速度も上がっているということ。
これに品温のデータも組み合わせれば、より精密なアルコール管理が可能になる。
しかもTILTは、タンクの中身をいちいち見に行かなくてもスマホで確認できるという優れもの。

ただ一つ難点があり、アメリカの製品のため温度表示が華氏(°F)になっており、摂氏への変換が必要ということ。
華氏60度°Fと出ても摂氏何度なのかは計算し直さないといけないので面倒でしたので、このTILTのデータをArduinoに送り、華氏から摂氏に変換した上で、他のデータと一緒にグラフ化できるように組み込みました。

これで全てのデータをグラフとして確認できるようになりました。
定期的にスマホで確認し、「昨日に比べて今日は比重の下がり方が早いな」と思えば室温を下げ、遅すぎれば上げる。
そんな微調整が可能になったのです。
陶芸家が窯の前で炎を見つめながら薪をくべていた作業が、自動で温度管理された窯に置き換わったようなものだと思います。
甘い酒を造るために辿り着いた先にいたのは、杜氏でも醸造家でもない、エンジニアリングで管理する陶芸家のような立ち位置の「酒作家」でした。
構築にはそれなりの時間がかかりましたが、思い描いた通りのものが出来上がったと思います。
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この記事を書いた人
旨い酒を作りたいという思いで、岸和田の地にて酒蔵を始めました。また、酒造りの傍ら、古美術商も営んでおり、ぐい呑みなどの酒器を集めています。