年齢確認
あなたは20歳以上ですか
LINEお友達募集中
日本酒のラベルで「袋吊り」「雫酒(しずくざけ)」「斗瓶取り」といった言葉を見かけたことはありませんか。
なんとなく特別そう、でも何がどう違うのかはよくわからない、そんな方も多いと思います。
にっこにこ太陽酒造がいちばん大切にしているのが、この 袋吊り という搾り方です。
今回は、袋吊りとはどんなお酒なのか、なぜ私たちが手間もコストもかけてこの方法にこだわるのかを、できるだけやさしくお話しします。
日本酒は、米と米麹と水を発酵させた「醪(もろみ)」から、液体(お酒)と固体(酒粕)を分ける「搾り」という工程を経て生まれます。同じ醪からでも、この搾り方しだいでまったく表情の違うお酒になります。
袋吊りは、醪を布製の「酒袋」に少しずつ詰め、その袋を吊るすだけ。
あとは何もしません。機械も使わず、重力にまかせて、袋の口からぽたり、ぽたりと落ちてくる雫だけを集めます。
ひとつの袋から取れるお酒はごくわずか。
いくつもの袋を吊るし、一晩から数日かけて、ようやくタンクが満ちていきます。
「雫酒」「雫取り」と呼ばれるのは、この一滴ずつ集めるすがたから来ています。

一般的な日本酒の多くは「圧搾」で搾られます。
圧搾には、自動圧搾機(通称ヤブタ)や、槽(ふね)と呼ばれる箱に酒袋を積み重ねて上から押す方法があります。
どちらも醪に外から圧力をかけ、お酒をしっかり搾り出すやり方です。
圧搾の長所は、効率の良さにあります。
醪の8〜9割をお酒として回収でき、時間も短く済みます。
たくさんのお酒を安定してお届けするためには、とても理にかなった方法です。
いっぽう袋吊りは、外から一切の力を加えません。
回収できるお酒は醪のおよそ半分ほど。残りはまだお酒を含んだまま酒粕になります。
時間がかかり、手間がかかり、量は採れない。正直に言えば、商売としてはとても非効率な方法です。
それでも私たちが袋吊りを選ぶのは、「押さない」ことでしか生まれない味があるからです。
日本中を見渡しても、販売用のお酒を袋吊りで搾る蔵はごくわずか。
多くの蔵では、品評会に出す特別な一本など、ごく少量にとどめています。
お酒に圧力をかけると、米の細胞が押しつぶされ、本来お酒に出てきてほしくない成分までしぼり出されてしまいます。
渋み・えぐみ・重さのもとになる、いわゆる「雑味」です。搾りの後半、強く押した部分ほど、この雑味は濃くなっていきます。
袋吊りには、そもそも「押す」工程がありません。袋から落ちてくるのは、醪の中で自然に液体になった、いちばん澄んだ部分だけ。雑味のもとが物理的に出てこないのです。
これは「雑味を取り除いている」のではなく、「最初から雑味を出していない」という発想です。あとから引き算をするのではなく、よけいなことを最初からしない。袋吊りのお酒が澄んだ味わいになるのは、この一点に尽きます。
ここは、にっこにこ太陽酒造のもうひとつのこだわりです。
多くの日本酒は、搾ったあとに「火入れ」という加熱殺菌を一度、または二度おこないます。火入れをすると品質が安定し、長く保存しやすくなります。とても大切な技術です。
私たちの袋吊りのお酒は、その火入れをあえておこなわず、「生(なま)」のままお届けすることを基本にしています。加熱をしないぶん、搾りたての香り、みずみずしさ、舌の上ではじけるような新鮮さが、そのまま残ります。袋吊りで雑味なく搾った一滴を、さらに「生」のまま、いわば、いちばん無垢な状態のお酒です。
そのかわり、生酒はとても繊細です。
お届けしたあとは、冷蔵での保存をお願いしています(くわしくは記事の後半で)。
袋吊りのお酒を口にした方からよくいただくのが、「アルコールのツンとした感じが少ない」「やわらかい」というお声です。
これにはいくつか理由がありますが、ひとつには、機械的な刺激を加えずに搾ることで、お酒の中で水とアルコールがよくなじんだ状態(専門的には「水素結合」と呼ばれます)が保たれやすい、と考えられています。水とアルコールがしっかり溶け合っているほど、アルコール単体のツンとした刺激は穏やかに感じられます。
この水とアルコールの「なじみ」については、科学論文も交えてくわしく掘り下げた記事を別にご用意しています。もっと深く知りたい方は、あわせてお読みください。

お酒のいちばん古いすがたは、米と麹と水だけを発酵させ、濾さずにそのままいただく「どぶろく」です。
とろりと白く濁り、米の粒感や甘み、発酵のいきいきとした風味をまるごと味わえる、素朴で力強いお酒です。
どぶろくは「すべてをそのまま生かす」お酒。
袋吊りは「自然に出てきたものだけを受け取る」お酒。一見すると正反対のようですが、根っこにある思想は同じです。
どちらも、造り手が余計な手出しをせず、お米とふくらむ発酵の力にまかせる。
足さない、壊さない、ごまかさないその正直さが、そのまま味になります。
にっこにこ太陽酒造の「効率より、誠実さを」という言葉は、ここから来ています。
醸造の途中はIoTで一日じゅう見守りながら、最後の搾りだけは重力にゆだねる。
テクノロジーと手仕事の、いいとこ取り。
お米の声をいちばん素直なかたちでお届けしたい。それが私たちの考える、袋吊りというお酒です。

せっかくの貴重な一滴ですから、その魅力をいちばん引き出す飲み方をご紹介します。
温度 … まずはよく冷やして。10℃前後だと、澄んだ香りとシャープな後口が際立ちます。少し置いて温度が上がってくると米の甘みがふくらみ、ひとつのお酒で二度おいしく楽しめます。
器 … 口径の小さいワイングラスや、ぐい呑みがおすすめです。香りがやさしく立ち上がり、雑味のない澄んだ味わいをまっすぐ感じられます。大きめのワイングラスもオススメ。
料理 … 繊細な味わいを邪魔しないものを。白身魚のお造り、出汁のきいた炊き合わせ、塩でいただく天ぷらなど、和の淡い味つけとよく合います。
保存 … 必ず冷蔵庫で。とくに火入れをしていない生のお酒は鮮度がいのちです。開栓後はなるべく早め、数日のうちに飲み切っていただくと、搾りたての表情をいちばん楽しめます。
袋吊りとは、圧力をかけず、重力だけで一滴ずつ搾る、日本酒のいちばん静かで贅沢な搾り方です。
押さないから雑味が出ず、火入れもしないから搾りたての新鮮さがそのまま。
水分とアルコールがよくなじんだ、まろやかな口当たりが生まれます。
量は採れず、手間もかかります。それでも、お米が本来もっている澄んだ味を、そのままお届けしたい。
その思いで、にっこにこ太陽酒造は今日も袋を吊るしています。
「特別な日本酒を一度試してみたい」という方に、自信を持っておすすめできる一滴です。ぜひあなたの舌で、押さずに搾るお酒の違いを確かめてみてください。
シェア
この記事を書いた人
旨い酒を作りたいという思いで、岸和田の地にて酒蔵を始めました。また、酒造りの傍ら、古美術商も営んでおり、ぐい呑みなどの酒器を集めています。