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「いつか自分の酒蔵を持ちたい」「地元に新しい醸造所を立ち上げたい」そんな思いを抱く方が、ここ数年、少しずつ増えています。
背景には、クラフトビールの定着や食文化の多様化、地域に根ざしたものづくりへの関心の高まりがあるように感じています。
しかし、酒蔵を始めるという行為は、想像以上に大変は手続きと、日々の地道な実務を伴います。
「免許さえ取れば、あとは好きな酒が造れる」という単純な話ではありません。
これから酒類製造業への参入を検討している方に向けて、酒類製造免許取得の実態と、現実的な参入ルートとして注目される「クラフトサケ」について、現場の感覚を交えて整理したものです。
酒類製造免許は、所轄の税務署に申請したうえで、最終的な可否は国税局が判断します。
つまり、審査は二段階構造です。
完璧な書類を揃えて提出しても最低4か月掛かります。もし書類に不備があれば修正に時間がかかり、審査は伸びます。
イメージは税金に関する事(酒税)は税務署で、酒造りに関する所は国税局と言った具合です。
申請にあたって特に大変なのが、経営に関する書類群です。
販売価格、原価計算、原材料費、仕入先、製造数量、販売数量、収支見込みなど、これらを品目別に細かく記載します。
しかも決まったフォーマットというものが存在せず、自分で作らないといけません。
当然ながら、「だいたいこのくらい」では通用しません。
1Lあたりの原価をどう積み上げ、いくらで売り、どれだけの利益を見込むのか。
数字の根拠を示せなければ、免許は下りません。
製造原価表、販売計画書、損益計算の見込みいずれも、頭の中の漠然とした構想を、第三者が読んで納得できる程度に落とし込む作業が必要です。
販売計画には、実際に酒を買い取ってくれる取引先の存在が不可欠です。
多くの場合、酒販店や飲食店から「この蔵の酒を取り扱う」という承諾書を集める必要があります。
聞いた話だと、20数件の居酒屋の判子をもらったという人もいました。
実際、1つの居酒屋で年間6000L購入出来るかと言うとなかなか厳しいものがありますし、それなりの整合性も必要なので結果的にそれくらいの数字になったのでしょう。
もし酒屋を経営しているようでしたら、問屋や知り合いの酒屋さんに頼めれば一件の量を増やすても大丈夫しょう。
まだ造ってもいない酒について、「こういうコンセプトで造ります」と説明し、味のイメージを伝え、納得してもらい、書面で約束を取り付ける。
これは免許取得における最大級の難所のひとつです。
「酒ができてから営業すればいい」という順番では成立しないのが特殊な構造ですね。
当蔵の様にその他の醸造酒の場合、免許交付後は原則として年間6,000L以上の製造が義務付けられています。
一升瓶換算で約3,300本、四合瓶でおよそ8,300本。
これだけの量を、毎年、造って、売り切らなければなりません。
「小さく始めて、少しずつ育てる」という発想は、ここで一度考え直さないといけません。
最初から、相応の規模を回し続けられる体制を作る必要があるのです。
免許の種類によって基準数量は異なるため、自分の事業規模に合った免許区分の選択そのものが、最初の重要な意思決定となります。
税務署は、書類だけで免許を交付してくれません。
実際に酒が造れる施設・設備が整っていることを確認したうえで免許が下ります。
つまり、まだ免許のない段階で、洗米機、蒸米設備、麹室、仕込みタンク、搾り機、貯蔵タンク、瓶詰めラインといった酒造に必要なモノ一式を揃えておく必要があるのです。
設備投資は数百万円から、規模によっては億単位に及びます。
「もし免許が下りなかったら、すべてが負債になる」というリスクを背負ったうえで、申請に臨むことになるので出来るだけ費用をかけない対策も必要です。
物件の選定、用途地域、上下水道、排水処理のほか、保健所、消防署の許可など施設面での要件もあわせて満たさなければなりません。
ココまで読まれた方は薄々気づいた方もおられるかもしれませんが、公的な許認可は行政書士に依頼するのが一般的ですが、酒類製造免許は事情が異なります。
経営計画、製造工程、衛生管理、原価構造、酒質設計といった内容は、申請者本人が腹落ちしていなければ書けません。
税務署の担当者からの質問にも、本人がその場で答える必要があります。
製造設備について、酒母から上槽までの工程、想定する酵母や麹菌これらを他人任せで通すのは、現実的に不可能です。
最終段階の国税局の審査で答えられないと、結果的に審査が通りません。
また、原材料の仕入先も必要で、コチラも契約書や見積もりが必須です。
「行政書士に丸投げして免許を取った」という話をほとんど聞かないのは、そういう構造だからです。
結果として、申請者自身が膨大な書類を作成することになります。
SNSでよく見る、6坪の場所でクラフトビールが造れます。
免許取得をサポートしますと言った広告を見受けますが、こういった所は確かに免許取得のサポートはしてもらえますが、その分かなりの費用が掛かります。
サポートしてもらえる分、必要な機材の購入や原材料の手配などをしてもらえますがその分割高になる。
それが彼らの利益なのですがから。
なにも考えないで、そういったところに頼めばめんどくさい交渉事を一気に終わらせられると考えることも出来るでしょうが、その分利益率はかなり下がりますし、売れる保証はしてもらえません。
最終は自分で営業し販売しないといけないのですから。
ようやく免許が交付され、製造を開始しても、書類仕事は終わりません。
毎月、製造数量・移出数量・在庫数量を税務署に申告します。
さらに製造現場では、もろみの温度、ボーメ、アルコール分、酸度、アミノ酸度といった成分を毎日測定し、記録として残す必要があります。
設備の変更、品目の追加、社名や住所の変更があれば、その都度、税務署への報告・申請が発生します。
「酒を造る」という言葉には、こうした事務作業のすべてが含まれているのだと、現場に立つほどに実感することになります。
酒造とは酒造りの殆どが書類作りや機材の洗浄作業です。
酒類製造業は、税務署と切っても切れない関係にある業種です。
制度を理解し、書類を整え、必要なときに必要な報告を行う。
この日常を負担に感じる方には、率直に申し上げて、向いていません。
逆に、ルールに沿って淡々と進めることが苦にならない方であれば、この一連の手続きは「乗り越えるべきもの」として位置づけられます。
酒造免許の取得は、その適性を試す最初の関門なのかもしれません。
ここ十数年で、クラフトビールは確実に日本の食卓に根を下ろしました。
ブルワリーごとの個性、地域の素材、小ロットならではの実験性。
大手メーカーの製品とは別軸の価値が、消費者に受け入れられたのです。
この流れは酒類全般に波及しています。
ジン、ウイスキー、シードル、そして日本の伝統的な醸造酒も、その例外ではありません。「大量・安定・均質」とは異なる尺度で酒を選ぶ層が、確かに育ってきました。
大量生産、安定供給、全国流通、これらは大手メーカーが圧倒的に得意とする領域です。
新規の小さな蔵が、同じ土俵で勝負しても、勝ち目はありません。
逆に、大手が「コストが合わない」「ロットが小さすぎる」「手間がかかりすぎる」と判断する領域には、明確な空白が広がっています。
新規参入者が狙うべきは、まさにそこです。
ありきたりな酒は、大手でも、中堅でも造れます。
「ありきたりではない酒」を、納得できる経済性で造り、届けられるかどうか。これが、新規参入者にとっての最大の問いです。
最近では名前だけクラフトビールというモノを大手が宣伝費を大量に使い売り出しているみたいですが、通常のものに少し変化をもたらした物を作り乗っかってきているようです。
実際のところ、クラフトビールは厳しい戦いを強いられると思います。
クラフトビールって1本1000円くらいしていますよね
通常品ならコンビニでも230円くらいで買えるのになんでこんなに高いの?となります。
それでもウチのビールは美味いからリピーターが付くだろうから大丈夫と考えるかもしれませんが、原価計算をしてみるとその理由がはっきりわかります。
瓶代:100円
ラベル代:50円
酒税:約50円
コレだけで200円です、さらに材料費、光熱費、家賃、人件費などが乗れば、どれだけ安く見積もっても300円はくだらないでしょう。
利益なしでコレだけ掛かります、そうコレが原価です。
そして、定価が1000円であれば、酒屋に卸す際の割引、さらに問屋の手数料などを考えると、1本1000円で売っても利益どころか赤字になる可能性もあります。
この他、卸やネット販売の場合輸送用の箱が必要ですし、梱包材も必要です、また、機材の償却も視野に入れておかないといけませんし税理士の費用など、見えない経費というも考えないといけません。
1本1,000円でコレくらい費用がかかります。
広告も出さずにめちゃくちゃ売れれば可能性もありますが、ほぼ不可能でしょうね。
ちなみに、当蔵のある地域にもクラフトビールのメーカーはありますが、そこは本体がかなりの規模の鉄工所で、自社の造る製品の宣伝費としてやっているような所はありますが、そう言う理由でなければ厳しいのではないでしょうか。
もし、クラフトビールを始めたいなら飲食店の併設はマストでしょう。
そこなら瓶代、ラベル代は不要になり、卸の費用は無くなるので、1杯800円のクラフトビールが飲める小洒落た飲食店なら利益率も上るのでなんとかなるのかもしれません。
ただ、従業員などは雇えるだけの利益はでないでしょうが・・・・。
ここで、現実的な制約に触れておきます。
清酒(日本酒)の製造免許は、需給調整の観点から、2026年現在、新規にはほぼ交付されません。
「日本酒を造る蔵を、ゼロから立ち上げたい」という構想は、入口の段階で壁にぶつかります。
選択肢は、既存の蔵を承継するか、休眠免許を譲り受けるかいずれも限定的で、相応の資金とご縁が必要です。
新規免許の道がほぼ閉じている、という事実は、最初に冷静に受け止めておくべき現実です。
そこで近年、新規参入者の現実的な選択肢として浮上しているのが、いわゆるクラフトサケです。
クラフトサケは、米と麹を主原料としながら、果実、ハーブ、茶、ホップなどの副原料を加えて造る醸造酒を指します。
酒税法上の分類は「その他の醸造酒」となり、清酒の枠から外れるため、新規免許取得の余地が残されています。
味わいの軸は日本酒に近いものを持ちながら、清酒では認められない素材の組み合わせや製法を取り入れることができます。
「日本酒のようで、日本酒でない」この立ち位置こそが、クラフトサケが持つ最大の武器です。
「日本酒の伝統を尊重しつつ、その枠の外側で自由に造る」という設計思想は、私のような新規参入者の考えとも自然に重なります。
クラフトサケに限らず、新規参入者が差別化を図るうえで重要なのは、大手が経済合理性の観点から踏み込めない製法を選ぶことです。
その代表例が「袋吊り(ふくろづり)」です。
袋吊りとは、もろみを布袋に入れて吊るし、自然に滴る雫だけを集める搾り方を指します。圧力をかけないため、雑味のないクリアな酒質が得られはしますが、その分歩留まりは悪く約半分が酒粕になりますし、作業時間も膨大になります。
大手メーカーや既存の蔵が、この製法を主力商品で採用するのは、現実的ではありません。コスト構造が合わないからです。
実際袋吊りを行うのは品評会に出すための極少量だけで、メインに行なっている酒蔵は殆どありません。
一方、当蔵のような零細蔵が「年間数百本の特別な一本」として袋吊りを位置づけるならば、十分に成立します。
価格が高くても、その価値を理解する顧客は確実に存在しますから。
「真似しようと思えば真似できるが、真似する経済合理性がない」この領域こそが、新規参入者の主戦場です。
クラフトの世界では、誰が、どこで、なぜ、どのように造ったのかという背景が、味わいと同じくらいの比重で評価されます。
地域の米、地域の水、地域の人。
造り手の哲学、設計思想、試行錯誤の過程。
これらは大手の広告予算では再現できない、新規参入者だけが持ち得る資産です。
免許取得という重い扉を抜けた先には、この資産を磨き続ける長い道のりが待っています。
ここまで読んで、「ヘビーだなぁ」と感じた方もいるでしょう。
一方で、「それでも自分は造りたい」と再確認した方もいるはずです。
私がそうでした。
ただ、酒蔵を始めるという選択は、ロマンだけでは続きません。
書類、数字、税務署対応、毎日の分析、毎月の申告、年間最低製造数量というノルマ、これらを淡々とこなす日常の積み重ねが、酒造りという仕事の輪郭を形づくります。
それでもこの道を選ぶのであれば、入口でつまずかないために、次の三点を最初に固めることをおすすめします。
この三点が曖昧なまま走り出すと、申請段階でほぼ確実に詰みます。
先ずは最寄りの税務署の酒精担当官に相談することをオススメします。
基本、税務署は止めといたらというスタンスでの対応になりますので、いかに自分が酒を作りたいか、こういった構想があるなど具体的な思いなどを持って臨まないといけません。
ただクラフトビールやりたんですでは門前払いされるのが落ちです。
しっかりした経営状況と、熱意がないと受け付けてもらえません。
税務署にとっても、酒造免許の審査はかなりハードな部類だそうですから、いい加減な人はお断りというスタンスです。
酒蔵を始める道は、決して華やかな入口ではありません。
しかし、入口の重さは、その先にある仕事の確かさを保証する装置でもあります。
簡単に始められる業界なら、ここまで個性的な造り手たちが残ってこなかったでしょう。
具体的な疑問について
コメント欄やお問い合わせフォームから、お気軽にお寄せください。
可能な範囲で、現場の感覚に基づいてお答えします。
最後に、この記事が、あなたの判断の一助となれば幸いです。
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この記事を書いた人
旨い酒を作りたいという思いで、岸和田の地にて酒蔵を始めました。また、酒造りの傍ら、古美術商も営んでおり、ぐい呑みなどの酒器を集めています。