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「雫酒」という言葉を耳にしたことはあっても、一般的なお酒と何が違うのか、なぜあれほど高価なのかをご存じの方は意外と少ないかもしれません。
雫酒は、古くから受け継がれてきた搾り製法のひとつで、その手間と時間、そして極めて少ない歩留まりから「最高峰の搾り方」とも称されています。
本記事では、その他の醸造酒の酒造免許のもとで日々醸造に向き合う当蔵が、雫酒の定義から製法、そして「なぜ高いのか」という理由まで、現場目線でわかりやすく解説します。

雫酒とは、発酵を終えたもろみ(醪)を「酒袋(さかぶくろ)」と呼ばれる目の細かい布袋に詰めて吊るし、圧力を一切加えずに自然に滴り落ちる「雫」だけを集めたお酒のことを指します。
「袋吊り(ふくろづり)」「雫搾り(しずくしぼり)」「雫取り(しずくとり)」とも呼ばれ、いずれも同じ製法を表す言葉です。
通常の搾り工程では、専用の自動圧搾機などを使ってもろみに圧力をかけ、酒粕と液体を分離していきます。
一方で雫酒は、重力のみを使ってポタポタと滴る液体だけを集めるため、出来上がるお酒は驚くほど透明感があり、雑味のない繊細な味わいに仕上がります。
雫酒の製造工程は、シンプルに見えて実は職人の感覚と忍耐が問われる繊細な作業です。
まず、発酵を終えたもろみを酒袋に丁寧に詰めていきます。
袋を吊るすための太い棒に何本もの袋を結びつけ、その下に酒を受ける容器を置きます。
あとは時間の経過とともに、酒袋から雫が滴り落ちるのを、ひたすら待ち続けます。
機械を使えば数時間で終わる搾り作業も、雫酒の場合は一晩、長いものでは丸一日以上かけて、ゆっくりと自然の重力に任せて液体を集めていきます。
この間、温度管理を徹底し、雑菌の混入を防ぎながら、雫の状態を見守り続けなければなりません。
雫酒が一般的なお酒の数倍の価格で販売されているのには、明確な理由があります。コスト構造の観点から、3つのポイントを解説します。
最大の理由は、なんといっても歩留まりの低さです。
通常の圧搾機を使った搾りでは、もろみから約80〜90%の液体を回収することができます。
しかし雫酒の場合、圧力をかけられないため、酒袋の中には酒粕とともにかなりの量の液体が残ったまま。
最終的に商品として回収できるのは、もろみ全体のおよそ半分程度に留まります。
つまり、同じ量の原料からつくれる雫酒は、通常製法のおよそ半分。
原料コストだけで考えても、単純計算で2倍になります。
「同じ仕込みからこれだけしか採れないのか」というのが、現場での実感です。
時間コストも雫酒を高価にしている大きな要因です。
機械搾りであれば数時間で完了する工程に、雫酒は一晩、もしくはそれ以上の時間を要します。
その間、搾り場は雫酒のためだけに占有されるため、他の仕込みスケジュールにも影響します。
さらに、長時間にわたる作業中は、温度管理や衛生管理に常に気を配る必要があります。
生産効率の観点では、雫酒は極めて非効率な製法とも言えるのです。
歩留まりの低下と時間コストの増大に加え、雫酒には次のような追加コストが発生します。
これらを総合すると、雫酒の製造コストは通常製法と比較して大幅に上昇します。
歩留まり半分・時間数倍・人件費数倍、これらが積み重なれば、販売価格に反映せざるを得ないのは、ご想像いただけるのではないでしょうか。

これほどコストのかかる製法であるにもかかわらず、雫酒が今もなお造られ続けているのには、それだけの価値があるからです。
圧力をかけずに搾った雫酒は、酒粕由来の渋みや雑味がほとんど混ざりません。
発酵中に生まれた繊細な香り成分が壊れることなく、そのまま液中に残ります。
口に含めば、シルクのような滑らかな舌触りと、透明感のあるクリアで奥行きのある味わいが広がります。
全国レベルの品評会に出品されるお酒の多くがこの雫酒製法で仕込まれていることからも、その品質の高さがうかがえます。
特別な日の一杯として、あるいは大切な方への贈り物として選ばれ続けている理由は、この「他では代えがたい味わい」にあります。
当蔵では、その他の醸造酒の酒造免許のもと、伝統の雫酒製法を用いた特別な一本をお造りしています。
歩留まりが半分になることも、一晩かけて搾ることも、すべては「最高の一滴」をお届けするため。
一般的な製法に比べて手間も時間もかかりますが、その分だけ、雑味のないクリアな味わいと、華やかな香りを存分にお楽しみいただけます。
ぜひ一度、当蔵が手間ひまかけて仕上げた雫酒をご賞味ください。
特別な一杯を探している方は、ぜひ当蔵の雫酒をお試しください。
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この記事を書いた人
旨い酒を作りたいという思いで、岸和田の地にて酒蔵を始めました。また、酒造りの傍ら、古美術商も営んでおり、ぐい呑みなどの酒器を集めています。