酒米と食用米とはどう違うのか、弊社が食用米を使う理由

酒米と食用米とはどう違うのか、弊社が食用米を使う理由

2026年8月02日
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    「食べて美味しいお米」で酒を醸す理由

    稲架掛けした稲のある田圃の風景

    当蔵が魅せる食用米どぶろくの世界

    日本酒の世界において、「酒米(酒造好適米)」と「食用米」の違いをひと言で表すなら、非常にシンプルです。それは「食べて美味しいかどうか」。

    「そんな身も蓋もない……」と思われるかもしれません。
    しかし、読んで字のごとく、両者は目指す目的が根本から異なります。
    私たちが普段食卓で口にする食用米は、炊きあがった時のおいしさ、ツヤ、甘み、噛みごたえを極限まで追求して品種改良が重ねられてきました。

    一方で、代表格である「山田錦」に代表される酒米は、「食べて美味しいかどうかの基準をあえて無視し、
    とにかく酒造りに適すること」だけを突き詰めて開発されたお米なのです。

    では、なぜ酒造りの現場ではこれほどまでに酒米が重宝され、そしてなぜ当蔵はあえて「食用米」にこだわり続けるのか。
    そこには、当蔵ならではの挑戦があります。

    酒米と食用米、それぞれの設計図

    酒造好適米と呼ばれる酒米は、食用米と比べると一回りほど粒が大きいのが特徴です。
    そして最大の特徴は、米の中心部分に「心白(しんぱく)」と呼ばれる白く濁った組織が存在することにあります。

    心白は隙間の多い構造になっており、米を蒸した際に「外硬内軟(外側はしっかり硬く、内側は柔らかい)」という酒造りに最も理想的な状態に仕上がります。
    さらに、この隙間に米麹(こめこうじ)の菌糸が奥深くまで入り込みやすいため、お米のデンプンを効率よく糖へと変える(糖化する)ことができるんです。

    これに対して、普段食べている食用米は、米全体にデンプンがぎっしりと詰まっています。
    心白がなく、糖と糖の結合が強いため、酒造りの観点から見ると「非常に溶けにくく、糖になりにくい」という性質を持っています。

    なぜ当蔵は、酒造りに不向きな「食用米」を使うのか?

    酒造りの効率や歩留まりだけを考えれば、酒米を使うほうが良いのは解っています。
    食用米を使うことは、正直、発酵のコントロールも難しいためめんどくさい方法です。

    それでも当蔵が食用米にこだわる理由。

    それは非常にシンプルで、純粋な疑問と情熱から始まりました。

    「食べて美味しいお米でお酒を造ったら、酒も上手いんじゃね?」でした。

    旨味や甘みが凝縮された食用米だからこそ表現できる、お米本来の持つ豊かな味わいがあるはず。
    私たちはその可能性を信じ、あえて手間暇のかかる食用米を使っています。

    「飲む」のではなく「食べる」粒が残るどぶろくの秘密

    当蔵の食用米を用いた酒造りの魅力が、最も顕著に現れているのが「どぶろく」です。

    一般的な清酒(日本酒)の製造プロセスでは、発酵が終わったもろみを「圧搾(搾る・濾す)」という作業によって酒粕と液体に分離します。
    そのため、たとえ米の粒がもろみの中に残っていたとしても、搾る工程で潰れ、トロッとした液体に仕上がります。

    しかし、もろみをそのまま味わう「どぶろく」において、当蔵の食用米は真価を発揮します。

    前述した通り、食用米は酒米に比べて溶けにくいという性質があります。
    この「溶けにくい」という特徴が、どぶろくにおいては最高の個性へと変わるのです。
    発酵が完了した段階でもお米の粒がしっかりと原形をとどめ、もろみの中に心地よく残ります。

    当蔵のどぶろくを口に含んだ瞬間、驚かれるお客様は少なくありません。
    それは、サラリと飲むお酒というよりも、「お米の粒感を噛みしめながら味わう、まるで“食べる”ような新感覚のお酒」だからです。
    米本来の噛むほどに広がる甘みと、甘酸っぱい発酵の風味が口いっぱいに広がる体験は、食用米だからこそ生み出せた当蔵ならではの味覚です。

    ひとつのタンクで起こる奇跡「並行複発酵」の仕組み

    ここで、少しだけお酒が生まれる科学のプロセスをご紹介します。
    お酒造りの基本は、「穀物や果実に含まれる糖を、酵母が食べてアルコールと二酸化炭素に分解する」という現象です。

    米は炭水化物、つまり「糖が固まった巨大な鎖」のような構造をしています。
    お酒ができるまでの工程は以下の通りです。

    • 醸造準備:蒸したお米を準備します。
    • 糖化:麹菌が持つ酵素の力で、炭水化物(デンプン)の強い結合を解きほぐし、「糖」へと分解します。
    • アルコール発酵:分解されてできた糖を、酵母がパクパクと食べて「アルコール」と「二酸化炭素」に変えていきます。

    やがてタンク内のアルコール濃度が高まっていくと、最終的にはそのアルコール自体によって酵母自身が役割を終えて死滅し、お酒が完成します。

    ここで特筆すべきは、日本酒やどぶろく、焼酎、みりんといった日本の伝統的な醸造技術です。
    日本酒造りでは、「デンプンを糖に変える(糖化)」作業と、「糖をアルコールに変える(発酵)」作業を、ひとつのタンクの中で同時に進行させています。
    これを「並行複発酵(へいこうふくはっこう)」と呼び、世界的に見ても極めて珍しい醸造方法なんです。

    たとえばワインなどの果実酒(単発酵)は、ブドウそのものに最初から大量の糖分が含まれているため、「糖化」のプロセスが必要ありません。
    そのまま酵母を入れれば発酵が始まります。
    対して日本の酒造りは、本来なら酵素処理と発酵を別々に行うべきところを、ひとつのタンク内で絶妙なバランスを保ちながら同時に行っているのです。

    食卓と酒蔵をつなぐ、新しい一杯を

    片口とぐい呑みにどぶろくが入っている

    酒米に比べて糖同士の結合が強く、麹の力でも溶けにくい食用米。
    この扱いづらい食用米を並行複発酵の繊細なバランスの中でコントロールし、極上のどぶろくへと昇華させること。
    それこそが当蔵の誇る技術であり、こだわりです。

    効率を優先するならば使いたくない食用米ですが、そこには「食べた時の感動を、そのまま酒の旨味として届けたい」という信念が込められています。

    お米の粒がしっかりと立ち、噛むたびに広がる濃密な旨味と爽やかな酸味。
    「食べるように味わう」当蔵自慢の食用米どぶろくを、ぜひ一度ご賞味ください。
    私たちが普段食べているお米の、まだ見ぬ新しい美味しさに出会えるはずです。

     

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    醸造家プロフィール

    この記事を書いた人

    代表 / 醸造責任者 杉本 昭博

    旨い酒を作りたいという思いで、岸和田の地にて酒蔵を始めました。また、酒造りの傍ら、古美術商も営んでおり、ぐい呑みなどの酒器を集めています。