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「どぶろくは飲むヨーグルト」そう表現されることがあります。
乳白色のとろりとした見た目、そして口に含んだ瞬間に広がる爽やかな酸味。確かにヨーグルトと共通点が多い飲み物です。
ただ、その「酸味の正体」や「腸に良いと言われる理由」を正しく理解している方は、まだそれほど多くありません。
とくに最近は「乳酸菌が生きて腸まで届く」というキャッチコピーが乳製品でよく使われるため、「どぶろくの乳酸菌も腸まで届くの?」というご質問を、私たちクラフト醸造酒の蔵にも頻繁にいただきます。
この記事では、どぶろくの乳酸菌が本当に腸へ届くのか、そして腸活効果は本当に期待できるのかを、国税庁の資料や公的な研究データを参照しながら、できる限り正直にお伝えします。

まず大前提として、どぶろくがどんなお酒なのかを整理しておきます。
国税庁の「酒税法における酒類の分類及び定義」によると、どぶろくは「その他の醸造酒」に分類されます。
具体的には、米・米麹・水を原料として発酵させ、もろみをこさずに仕上げた酒類で、アルコール分が20度未満、エキス分が2度以上のものが該当します(国税庁「酒のしおり」より)。
清酒(日本酒)が「もろみをこしたもの」と定義されているのに対し、どぶろくはこさないことで、米・米麹・酵母・乳酸菌など発酵に関わったすべての成分がそのまま液体に残っている点が大きな特徴です。
結論からいえば、Yesです。
どぶろくの仕込みでは、酵母がアルコール発酵を始める前、あるいは並行して、自然界の乳酸菌が活躍します。
乳酸菌は米由来の糖を分解して乳酸を生み出し、もろみを酸性に傾けます。これにより、雑菌の繁殖が抑えられ、酵母にとって最適な環境がつくられていきます。
日本酒の伝統的な仕込み方である「生酛(きもと)造り」や「山廃」では、この乳酸菌の働きをあえて自然のままに取り入れる方法が採られており、各蔵元の研究でもその菌叢が詳細に解析されています。
たとえば菊正宗酒造の研究では、生酛造りにおいて乳酸菌が酵母増殖の土台となり、酸味と複雑な味わいを生む役割を担っていることが報告されています。
どぶろくのあの心地よい酸味は、ヨーグルトの酸味とまったく同じ「乳酸発酵」によるもの。
原料が乳か米かの違いはありますが、微生物の働きという観点では、極めて近い関係にあるといえます。
参照元:文部科学省「日本食品標準成分表(八訂)増補2023年」食品成分データベース

ここからが本記事の核心です。
「乳酸菌が腸に良い」という話は広く知られていますが、その効果は乳酸菌が「生きて腸まで届く」ことを前提に語られることが多いのも事実です。
では、どぶろくの場合はどうでしょうか。
口から入った乳酸菌は、まず胃酸という強烈な関門を通過しなければなりません。
日本乳業協会も「ヨーグルトの乳酸菌の多くは胃酸や胆汁酸で死滅する」と明確に説明しており、生きたまま腸へ届くのは、特定保健用食品や機能性表示食品で耐性を保証された菌株が中心です。
さらにどぶろくに特有の事情として、製品自体がアルコールを含んでいるという点があります。
実は酒造りの現場でも、酵母が発酵を進めるとアルコール濃度が上がり、酒母(しゅぼ)の中の乳酸菌は次第に死滅していくことが知られています。
長野県工業技術総合センターの研究でも、アルコール分10%を超える環境では多くの乳酸菌が生育できないと報告されています。
つまり、完成品のどぶろく(アルコール度数6〜15%程度)の中では、乳酸菌の多くがすでに弱っているか死滅している可能性が高いのです。
参照元:広島大学プレスリリース「生きた植物乳酸菌がアルコール中毒症状を回復させる効果を発見」(2020)

ただし、すべてが死滅するわけではありません。
米由来の発酵物に含まれる植物性乳酸菌は、動物性乳酸菌(ヨーグルトの乳酸菌)に比べて胃酸・胆汁酸・アルコールへの耐性が高いことが、複数の研究で報告されています。
広島大学大学院医系科学研究科の発表では、植物乳酸菌Lactobacillus plantarum SN13Tの生菌がアルコール環境下でも生存し、腸内細菌叢の乱れを改善する可能性が示されています(International Journal of Molecular Sciences, 2020)。
また、火入れ(加熱殺菌)をしていない生(なま)どぶろくでは、酵母や乳酸菌の一部が生きたまま残っているケースもあります。
ここがいちばん大切なポイントです。
近年の腸内細菌学では、「生菌でなければ意味がない」という古い常識は覆されつつあります。
国際的な学術機関(ISAPP)でも提唱されているポストバイオティクスという新概念は、「宿主の健康に有効な作用を発揮する不活化菌体やその構成成分」を指します。
簡単にいえば、たとえ死んだ乳酸菌(死菌)であっても、その菌体成分が腸内で善玉菌のエサとなり、免疫細胞を適度に刺激するということです。
ロシアの研究者メチニコフが100年以上前から指摘し、現在の腸内細菌学でも繰り返し検証されている事実として、「乳酸菌の働きには、生菌と死菌で大きな差はない」という見解があります。
つまり、どぶろくの乳酸菌が生きていようと死んでいようと、その菌体は腸まで届き、腸内環境を整える素材として確かに役立っているのです。
加えて、どぶろくにはもろみ由来の以下の成分も豊富に含まれます。
つまりどぶろくは、乳酸菌そのものだけでなく、腸内環境を多角的にサポートする「総合発酵食品」と捉えるのが正確です。

「どぶろくは焼酎よりカロリーが低い」という話、これも正確に検証してみます。
文部科学省の「日本食品標準成分表(八訂)増補2023年」および各種公的データをもとにすると、100mlあたりのカロリーはおおむね以下の通りです。
| 種類 | アルコール度数 | カロリー(100mlあたり) |
|---|---|---|
| どぶろく(純米仕込み) | 約14〜15% | 約100〜130 kcal |
| 本格焼酎(乙類) | 25% | 約146 kcal |
| 焼酎甲類 | 25% | 約206 kcal |
| 清酒(純米酒) | 15% | 約102 kcal |
| ビール | 5% | 約39〜45 kcal |
100mlで比較すると、どぶろくは焼酎よりも明確に低カロリーであり、清酒とほぼ同等です。
ただし重要な注意点があります。焼酎はストレートで100mlを一気に飲むことは少なく、水割りやお湯割りで薄めて飲むのが一般的です。
一方で、どぶろくは原液をそのままグラスに注いで飲むため、実際に飲む量で比較するとカロリー差は縮まることがあります。
「100mlあたり低カロリー=飲んでも太らない」とは限らない点には、正直にご注意ください。
どぶろくに腸活効果や発酵食品としての魅力があるとはいえ、飲み過ぎれば結局はカロリー過多になります。
厚生労働省が「健康日本21」で推奨する飲酒の適量は、純アルコール量で1日あたり男性20g、女性10〜13g程度です。
アルコール度数15%のどぶろくに換算すると、男性で約160ml(およそお猪口3〜4杯)が目安となります。
さらに、どぶろくは飲み口がまろやかで甘みもあるため、つい飲みすぎてしまいがちです。腸活目的で取り入れるなら、1日100ml前後を食事と一緒にゆっくりいただくのが理想的でしょう。

最後に要点を整理します。
私たちクラフト醸造酒の作り手としてお伝えしたいのは、どぶろくは単なる「腸にいいお酒」ではなく、米と微生物の力が一杯に凝縮された、日本最古の発酵文化そのものだということ。
健康効果はあくまで「楽しみながら、適量で」が大前提です。
ぜひ食事と一緒に、ゆっくりと味わってみてください。
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この記事を書いた人
旨い酒を作りたいという思いで、岸和田の地にて酒蔵を始めました。また、酒造りの傍ら、古美術商も営んでおり、ぐい呑みなどの酒器を集めています。