甘いどぶろくの作り方|酒蔵が実践する三段仕込みの技術と蒸米追加の秘密

甘いどぶろくの作り方|酒蔵が実践する三段仕込みの技術と蒸米追加の秘密

2026年6月11日
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    どぶろくと聞くと「酸味のある素朴な飲み物」というイメージを持つ方が多いかもしれません。

    しかし、酒蔵が丁寧に仕込んだ甘いどぶろくは、まろやかで自然な甘みと、米そのものの風味が広がる極上の一杯になります。

    本記事では、酒蔵が甘いどぶろくを造るために実践している伝統的な技術、特に「三段仕込み」と仕込み中の蒸米追加による甘さの引き出し方について、クラフト醸造酒の作り手の視点から解説します。

    どぶろくとは|にごり酒との違い

    ぐい呑みにどぶろく

    どぶろくは、米・米こうじ・水を原料に発酵させた、ろ過工程を経ない日本古来の醸造酒です。日本酒(清酒)が「もろみを搾る」工程を必ず経るのに対し、どぶろくは搾らずに米粒や麹の旨味成分をそのまま瓶詰めします。

    「にごり酒」と混同されることもありますが、にごり酒は粗く濾過した清酒であり、酒税法上は清酒に分類されます。

    一方どぶろくは「その他の醸造酒」に分類され、酒造免許も別物です。両者は法律的にも製法的にも明確に異なる飲み物といえます。

    クラフト醸造酒として近年注目を集めるどぶろくは、小規模な醸造所が独自のレシピで個性豊かな商品を生み出しており、飲み手の選択肢も大きく広がっています。

     

    どぶろくの甘さはどこから生まれるのか

    甘いどぶろくの造り方を理解するには、まず発酵の仕組みを知る必要があります。

    どぶろくのもろみの中では、二つの反応が同時に進行しています。

    一つは、麹菌が作り出す酵素によって米のデンプンが分解されブドウ糖になる「糖化」。もう一つは、酵母がそのブドウ糖を分解してアルコールと炭酸ガスを生み出す「アルコール発酵」です。

    この二つが並行して進む「並行複発酵」が、日本酒やどぶろくの最大の特徴です。

    つまり、どぶろくの甘さは「糖化のスピードがアルコール発酵を上回っている状態」で決まります。

    糖化が早く進めば糖分が残り、甘いどぶろくに。逆に発酵が活発になりすぎると糖が次々とアルコールに変わってしまい、辛口に仕上がります。

    甘いどぶろくを造るためには、この糖化と発酵のバランスを意図的に制御する技術が求められるのです。

     

    酒蔵が実践する「三段仕込み」とは蔵人が醪に蒸米を追加している

    甘いどぶろくの製造において鍵となるのが、日本酒造りでも用いられる伝統技法「三段仕込み」です。

    三段仕込みとは、酒母(しゅぼ)に対して原料となる蒸米・麹・水を、四日間かけて三回に分けて加えていく方法を指します。

    具体的には次の流れで進みます。

    • 初添(はつぞえ) 発酵の出発点となる酒母に、最初の蒸米・麹・水を加える工程です。この段階では発酵環境を整え、酵母をしっかり増やすことを目的とします。
    • 仲添(なかぞえ) 初添から一日置いた「踊り」の翌日に行う二回目の仕込みです。原料の量を増やし、もろみの規模を拡大します。
    • 留添(とめぞえ) 三回目で最終の仕込みです。さらに大量の蒸米・麹・水を加え、もろみを完成させます。

    このように段階的に原料を増やすのは、いきなり大量の米を投入すると酵母が薄まり、雑菌に負けてしまうリスクがあるためです。

    三段仕込みによって安定した発酵環境を保ちながら、もろみのスケールを徐々に育てていくのが酒蔵の知恵といえます。

     

    「四段」「五段」と増やせば、もっと甘くなる?

    実は理屈の上では、三段で仕込みを止めずに四段、五段と蒸米を追加していけば、糖化によって生まれるブドウ糖の量がさらに増え、どぶろくはどんどん甘くなっていきます。

    「それなら最初から思いっきり米を足せば、極上の甘口どぶろくになるのでは?」と考えたくなるところです。

    しかし、実際の製造現場ではそう単純にはいきません。

    蒸米を増やせば増やすほど糖化と並行してアルコール発酵も進み、もろみのアルコール度数は上昇していきます。

    そしてある段階を超えると、酵母自身が自分の作り出したアルコールに耐えきれず、活動を停止してしまうのです。

    酵母が死んでしまえば発酵そのものが止まり、麹の酵素による糖化を支える環境も失われます。

    その結果、追加した蒸米は溶けきれずに米粒のまま残り、出来上がるのは「甘くてアルコール感のある、米粒ゴロゴロのおかゆ」のような失敗作になってしまいます。

    これでは商品として成立しません。

    だからこそ酒蔵では、四段以上の仕込みを行うことはほとんどなく、三段仕込みを基本としたうえで、もろみの状態を見極めながら少量の蒸米を絶妙なタイミングで追加することで、甘さと発酵バランスの両立を図っています。

    甘いどぶろくは「足し算」ではなく「見極め」の技術によって生まれるのです。

     

    甘いどぶろくの決め手|仕込み中の蒸米追加

     

    ここからが本題です。酒蔵が「甘いどぶろく」を造る際の最大のポイントは、仕込みの後半、あるいは留添完了後のもろみに、追加で蒸米を投入することにあります。

    通常の三段仕込みで仕上がるどぶろくは、酵母が活発に働くため辛口寄りになりがちです。しかし、留添から数日経過したタイミングで蒸米を追加すると、次のような変化が起こります。

    1. 糖化が再活性化する 追加した蒸米のデンプンが、もろみ中の麹由来の酵素によって新たに分解され、ブドウ糖が一気に増えます。
    2. アルコール濃度が酵母を抑制する 仕込み後半のもろみはすでにアルコール濃度がある程度高まっています。このため、追加分の糖がすべてアルコールに変換される前に発酵が緩やかになり、糖分が残ります。
    3. 米の旨味が前面に出る 追加した蒸米から溶け出すアミノ酸や旨味成分が、甘みと一体となってまろやかな味わいを作り出します。

    この技術によって、人工甘味料や糖類添加に頼らず、米そのものの自然な甘さを引き出した甘口どぶろくが完成します。これこそが酒蔵の技と呼べる仕事です。

     

    蒸米追加のタイミングと量

    蒸米を入れた甑

    蒸米追加のタイミングは、酒蔵やレシピによって異なりますが、目安として次のような考え方があります。

    • 早めに追加(留添から2〜3日後):穏やかな甘さで全体のバランスを整えたい場合

    • 後半に追加(発酵が落ち着いた段階):明確に甘口へ振りたい場合

    • 複数回に分けて追加:複雑な味わいと余韻を持たせたい場合

    追加する蒸米の量は、留添までの総米量の10〜20%程度から試すのが一般的です。

    多すぎると糖化が追いつかず未消化のデンプンが残り、雑味の原因にもなるため、もろみの状態を観察しながら調整していくことが大切です。

    また、追加する蒸米の温度管理も重要です。

    熱すぎる蒸米はもろみ温度を急上昇させて酵母にダメージを与え、冷たすぎる蒸米は糖化反応の立ち上がりを遅らせます。

    蔵人はもろみの状態と温度を見極めながら、絶妙なタイミングを選んで蒸米を投入していきます。

     

    クラフト醸造酒としての甘いどぶろくの可能性

    甘酒をスプーンで掬っている

    「その他の醸造酒」の酒造免許を持つ醸造所にとって、甘いどぶろくは大きな武器となります。

    近年、クラフト醸造酒の世界では「飲みやすさ」「食事との相性」「日本酒初心者でも楽しめる甘さ」が重視される傾向にあります。

    甘いどぶろくは、日本酒を飲み慣れていない方や、海外のお客様にも受け入れられやすいスタイルで、新しいファンを獲得する入り口になります。

    また、米の品種・麹の種類・酵母の選択・蒸米追加のタイミング次第で、フルーティーな甘さからコクのある甘さまで、無限のバリエーションが生まれます。

    これこそがクラフト醸造の醍醐味であり、小規模な酒蔵だからこそ実現できる個性の表現方法です。

    デザートワインのように食後に楽しんだり、フルーツと合わせてカクテルに仕立てたり、料理とのペアリングを楽しんだり、甘いどぶろくは飲み方の自由度も高く、新しいクラフト醸造酒の市場を切り拓く可能性を秘めています。

     

    まとめ|伝統技法が生む自然な甘さ

    甘いどぶろくは、糖類や甘味料を加えるのではなく、三段仕込みと蒸米追加という伝統的な技術によって生み出される、米本来の自然な甘さが魅力です。

    酒蔵が長年培ってきた発酵管理の知恵を活かすことで、香り・甘み・旨味のバランスがとれた一杯が完成します。

    クラフト醸造酒としてのどぶろくは、これからも多様な味わいで飲み手を楽しませてくれるでしょう。

    ぜひ、酒蔵が丹精込めて造る甘いどぶろくを、自分だけのお気に入りの一杯として味わってみてください。

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    醸造家プロフィール

    この記事を書いた人

    代表 / 醸造責任者 杉本 昭博

    旨い酒を作りたいという思いで、岸和田の地にて酒蔵を始めました。また、酒造りの傍ら、古美術商も営んでおり、ぐい呑みなどの酒器を集めています。