新米醸造家の希米なブログ

酒造りに関することや、酒蔵の日常を希米(きまま)に綴っています。

零細酒蔵がArduinoとTILTで挑む、精密な日本酒造りの現場から

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零細酒蔵がArduinoとTILTで挑む、精密な日本酒造りの現場から

2026年5月03日
一人で営む零細酒蔵が、ArduinoとWi-Fiセンサー、Google Spreadsheet、そして比重計TILTを組み合わせて醸造をリアルタイム管理。職人のカンとIoTを融合させた、新しい日本酒造りの現場をご紹介します。
麹

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2万円で実現した自作スマート製麹システム

2026年4月25日
麹室をIoTで管理! 「麹」それは酒造りに欠かせない重要な要素です。 この麹の良し悪しで酒の味にも変化をもたらすので酒造りは麹づくりと言っても過言ではないくらいなんです。 その品質を左右するのが麹室(こうじむろ)の温度管理ということもあり、当蔵の麹室の自作の温度管理システムを導入し、より精密な製麹環境を実現したその仕組みや導入までの経緯を詳しくご紹介します。 麹室の温度管理がなぜ重要なのか 酒造りにおいて、麹は発酵の核心を担う存在で、麹菌が米に繁殖する過程で生み出す酵素が、デンプンを糖に変え、やがてアルコール発酵へとつながっていくんですが、育てる麹室では、温度・湿度・二酸化炭素濃度が麹の出来を大きく左右します。 特に日本酒用の麹は、味噌や醤油に使う麹と比べて温度管理が格段にシビアなんです。少し目を離した隙に品温が上がりすぎてしまうと、麹菌が死滅したり雑菌が繁殖したりして、せっかくの麹がダメになってしまうことも。 酒造りに使える良質な麹を安定して作るためには、24時間体制での細やかな管理が欠かせません。 その昔、今ほど精密な温度管理が出来ない環境ということもあり、麹づくりは人海戦術で種切りから出麹まで温度管理のため頻繁に場所の移動を行って生育環境を見守る必要がありました。 市販の製麹機では対応できない現実 製麹機という麹を作るための専用機器があります。温度を一定に保つ環境とヒーターを組み合わせた比較的シンプルな仕組みで、麹室の環境を自動管理してくれるものです。 家庭用であれば数万円から存在しますが、酒造りでは100kg単位の麹が必要になることもあるため、それなりの規模の機器が必要になります。 簡易的な業務用製麹機でも約20万円、温度管理を完璧に行い、大吟醸に使用する「突きハゼ」と呼ばれる特殊な麹まで作れる高性能機になると、なんと1台400万円・・・。 突きハゼとは、麹菌の菌糸が米粒の表面だけに広がり、内部には深く入り込まない状態の麹のことで、上品でなめらかな味わいの大吟醸酒を造る際に欠かせない技術です。 高性能な製麹機はその管理まで自動化できるという点で非常に優れてはいるのですが、うちのような零細酒蔵にはとても手が出ません。 しかも当蔵は普通の民家を改装した蔵。そもそも入口から大型機械が搬入できるかも怪しいので即却下。 まずはDIYで麹室を自作 一畳ほどのスペースに木枠を組み、断熱材で囲み、FRP(繊維強化プラスチック)で防水加工を施して扉を取り付けました。 防水ならペンキでも良さそうなものですが、ペンキは乾燥する時に有機溶剤を吐き出し乾燥しますし、いつまででているかが不明なこともあり却下。 その点、FRPは醸造用のタンクにも使われていたりするので問題がないし、そもそも私はFRPを取り扱えるということで採用しました。 あと、内部に棚台を設けることで、麹室としての基本的な機能は十分に成立しますし、製作コストは近くのホームセンターで揃うので材料費だけで約1万円ほど。 内部には電気を引いてLEDライトを設置し、当初はSwitchBotを活用して温湿度・品温・CO2濃度をスマートフォンで確認しながら、手動でヒーターのON・OFFを制御する運用を試みました。 この方法には大きな問題がありました。 人が定期的に確認しなければならないため、うっかり確認が遅れると品温が上がりすぎて麹がダメになってしまうのです。 自身の製麹技術の未熟さもありましたが、温度管理の精度不足が麹の出来の悪さに直結していました。 これでは到底、酒の仕込みに使える麹は作れません。 IoTで解決!Arduino(ESP32)による自動温度管理システム その後対策として考えたのがIoT(モノのインターネット)技術です。元々マイコン制御というものに興味があったのですがコードが書けないので躊躇していましたがAIの登場で一気にハードルは下がりました。 そこで採用したのは「Arduino(アルデュイーノ)」というオープンソースのマイコンボード。 電子工作の入門機として世界中で使われており、プログラムを書き込むことでセンサーの値を読み取ったり、外部機器を制御したりすることができるスグレモノ。 同じ用途ではRaspberryPi(ラズベリーパイ)も有名ですが、近年は性能向上に伴い価格も上昇しているため、今回はAmazonで約2,000円から購入できる「ESP32」というArduino互換ボードを選択しました。 コンパクトながらWi-Fi通信機能を内蔵しており、IoTプロジェクトには最適な一枚です。センサー類も1個あたり1,000〜5,000円程度で入手でき、品温センサー・温湿度センサー・CO2センサーをそろえても総額1万円ほど。 麹室の製作費と合わせても、トータル約2万円で本格的なスマート製麹システムが完成しました。 システムの仕組み 現在の麹室管理システムは、以下のような流れで動作しています。ESP32に接続した各センサーが、品温・室内温湿度・CO2濃度を常時計測し、データをWi-Fi経由でサーバー(GoogleスプレッドシートをGoogleDriveで運用)に1分ごとに自動送信・記録しています。 蓄積されたデータはリアルタイムでパソコンで確認しており、スマートフォンからも確認できるようになっています。品温が低い状態ではヒーターが自動でONになり室温を上昇。品温が上がってきたらヒーターをこまめにON・OFFしながら最適な温度帯を維持する仕組み。 これはまさに高価な製麹機が行っている温度制御と同等の機能?かもしれません。 プログラムはC++言語で記述されていますが、コードを1行も書いたことがなかったため、Google の生成AI「Gemini」に頑張ってもらいました(笑)。現代のAIツールを活用すれば、プログラミングが出来ない私でもIoTシステムの構築が可能な時代になったのがスゴイことですね。 思えば今から40年ほど前の高校生の頃、学校でパソコン授業で、先生から円周率は桁数を増やせば増やすほど描かれる円の形が綺麗になると言われ「へぇー」という感想しか無かった時代から考えるととんでも無い進化です。 導入後の変化 このシステムを稼働させてから、麹管理の現場は大きく変わりました。夜中に品温確認のために目を覚ます必要がなくななったのが大きいです。 また、データの推移を見れば手入れのタイミングも予測できるようになり、深夜作業をほぼゼロに抑えられるようになっています。 麹の品質も安定し、日本酒仕込みに使える水準の麹を安定して製造できるようになってきました。 400万円の製麹機には到底及ばないものの、2万円という投資でここまで到達できたことは、小規模蔵にとって非常に意義のある取り組みだったと感じています。 伝統的な日本酒造りの技術と、現代のIoT・AI技術を組み合わせることで、小さな蔵でも品質向上への挑戦ができる。 そんな可能性をこのシステムが示してくれています。 今後もデータを蓄積しながら、より良い酒造りを追求していきます。